001 恋人たちの輝き
イルミネーション輝く夜の街で、美智みちは俯いた。
三か月付き合っている彼氏は、会社の大プロジェクトに関わっているらしく、週末のデートもドタキャンされたばかり。ようやくこぎつけた今日のデートも、連絡なしに待ち合わせの時刻を過ぎている。
目の前に続く並木通りは、“恋人たちの輝き”と題されたイベントがあるらしく、多くのカップルが自分とは対照的に笑顔を見せる。
別れの文字が頭をよぎった――。
でも彼のことを思い出せば、嫌いになれない自分がいる。
(あと、五分待とう……)
美智は腕時計を見つめながら、ガードレールに腰を下ろす。
五分前も、そう思ったばかりだ。
その時、美智の携帯電話が震えた。メールである。
“ごめん! やっぱり今日も残業から抜けられなそう。あとでまた連絡する。”
たったそれだけのメール。
自分の惨めさに、美智は涙を堪えて顔を上げた。
ちらつく雪が、自分の身の上を凍えさせるようだ。
「わあ!」
その時、街全体が暖かくなるような錯覚を覚え、どこからともなく歓喜の声が上がった。
見ると、並木に付けられたイルミネーションが、倍以上の明るさを見せ、周りのビル街から明かりが消えている。
地上だけが明るさを見せる中で、美智の目に、こちらへ一直線に走ってくる男性の姿が映った。
「美智!」
そう呼ばれ、美智の目から涙が溢れる。
なぜこんなにも、彼を求めてしまうのだろう――。
「美智。遅くなってごめん。寒かったよな……」
ためらいもなく。彼の手が美智の手を包む。
「どうして……仕事は?」
やっと出た言葉に、彼は優しく微笑んだ。
「仕事だよ」
そう言って、彼は輝く街を示した。
たった十五分間、この通りに面したビル街を暗くし、並木に取り付けられたイルミネーションを倍以上の明るさで輝かせる、それが彼の携わった仕事であった。
「いつも仕事ばかりで待たせてごめん。でも、俺は美智のことが大好きだよ。だから結婚しよう。ずっと一緒にいたいんだ」
そう言いながら、彼が差し出したのは、イルミネーションに負けないくらい、輝く宝石いしの指輪だった。
美智の目から、更に涙が溢れる。
「……はい」
遥か先まで続く光の道は、未来へ続くバージンロードにも見えた。