スクープ
俺は報道カメラマン。事件を追って、西東。だけど最近、事件がない。
「葛西さん、見ましたよ。この間の、痴漢逮捕の記事」
後輩の記者に言われ、俺は鼻で笑う。
「あれは運がよかった。たまたま居合わせた電車で、痴漢が逮捕されたんだから。でも俺はな、本当はそんなチンケな事件は相手にしないんだよ」
「まあそうですよねえ。数年前に葛西さんが撮ったスクープ、火災現場の消防士の勇姿、今でも目に焼きついてますよ」
後輩に過去の栄光を引き合いに出されたが、俺は悪い気はしない。
あの時も偶然に居合わせたスクープ写真が撮れたが、それを超える写真はまだ撮れない。
「見てろよ。俺のカメラマン魂は、あれで終わりじゃない。あっと言わせるスクープを撮ってやるからな」
「ハハ。期待してますよ」
愛想笑いを含み、後輩は去っていった。後輩と言っても、今では出世して俺より上の立場だが――。
「葛西!」
その時、俺は部長に呼ばれて、部長のデスクへ向かった。
「はい、なんでしょう、部長」
部長の浮かない顔に、俺は悪い話だと感じ、身構える。
「実はな。ちょっと言いにくいんだけど……おまえが担当しているコーナー、打ち切ることになった」
「ええ!」
俺は驚いた。時事ネタを武器に、俺は街の声を直接聞いて、撮って、記事にしていたはずだ。
「ど、どうして……」
「まあ、新しい時代ということだ。若い者に、新しい時事ネタのコーナーを任せることにした。おまえの担当コーナーが、一番反響が薄いんだ。悪いと言ってるわけじゃない。だが、わかってくれ」
俺は返事もなしに、ただふらふらと会社を出て行った。ショックだった。
「スクープ……スクープがあれば……」
俺は家に帰ると、過去の自分が書いた記事を読み返した。決して面白くないわけではない。だがもう一度、数年前のような大スクープを撮りたい。そして、俺は名を馳せる。
考えが固まり、俺は真夜中の湖へ向かった。
辺りに人影などなく、真の闇が迫っている。
だが、俺はそんなことに恐怖を感じることもなく、ただ黙々とカメラをセットした。
「よし。俺はこれで、名を馳せることが出来る……」
ためらいもなく、俺は俺自身に火をつけた。
カメラのシャッター音が鳴り響く中で、真夜中に俺の最期の炎が上がった。