朗读:促织
文本:促织
音频制作:木各
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1
主殿へ
俺は、失われた過去を探す旅の途上だ。
過去は過去。それはわかっている。
だが、過去が曖昧では現在も覚束ない。
記録を紐解き、時を遡り、その光景を自分の記憶として取り戻す。
それが、今の俺に必要なことなんだ。
2
主殿へ
過去を辿る道のりは、長い。
大友へ。そして足利へ。戦乱の中また大友に戻り、
……そして、秀吉のもとに。
胸がざわつく。歴代の主の移り変わりなんて、ずっと見てきたのに。
ここで俺が、薙刀から脇差になったからだろうか。
それとも、他の刀同様、俺もここで炎に呑まれたとでも言うのか……?
3
主殿へ
この前の手紙は、間違っていたよ。
俺が焼けたのは、大阪じゃなかった。
大阪城が焼け落ちてなお、俺は無事だったんだ。
だから、俺は取り残されたみたいで悲しくて、その後焼けた時に全て忘れてしまったんだ。
だが、今は違う。
主殿もいれば、兄弟も、仲間もいる。
これ以上、過去にこだわるまでもない。
そろそろ、そちらに帰る。