砂の塔
ー与謝野晶子ー
「砂を掴(つか)んで、日もすがら
砂の塔をば建てる人
惜しくはないか、其時(そのとき)が、
さては無益(むやく)な其(その)労が。
しかも両手で掴(つか)めども、
指のひまから砂が洩(も)る、
する、する、すると砂が洩る、
軽(かろ)く、悲しく、砂が洩る。
寄せて、抑(おさ)えて、積み上げて、
抱(かか)えた手をば放す時、
砂から出来た砂の塔
直(す)ぐに崩れて砂になる。」
砂の塔をば建てる人
これに答えて呟(つぶや)くは、
「時が惜しくて砂を積む、
命が惜しくて砂を積む。」