半沢直樹12
時枝:伊勢島ホテルは代々湯浅家がトップに君臨する同族経営だ。特に先代の湯浅高堂のワンマンぶりは相当なもんだったらしい。息子の湯浅威が社長を継いでからもその古い経営方針を脱却できずにいることが業績不振の原因になってる。そういう隙を突いて資金運用でひと旗揚げようとしたのが羽根専務だ。利益を上げれば湯浅一族を押しのけて自分が社長になれるとでもたくらんだんだな。
半沢:その結果120億の損失を出した。
時枝:表向きは湯浅社長の指示で仕方なくやったと羽根専務は根回ししてるがな。実際はあの人が独断でやったことだと思う。うちはそれを見抜けずにまんまと200億の融資を実行してしまったってわけだ。
半沢:仕方ないさ。お前は伊勢島を任されてからたった三か月だったんだろう。
時枝:どんな事情があるにせよ、見抜けなかったのは俺の責任だ!それにサブバンクの白水銀行は融資はずだった100億をかなり早い段階でストップしてる。
半沢:白水が?白水は運用損失を見抜いたっていうのか?
時枝:恐らくな。前担当だった京橋支店から、もっとちゃんと引き継ぎをしていれば、今回の融資を止められたのかもしれない。
半沢:うまくいかなかったのか?引継ぎ。
時枝:通り一遍のことしか教えてもらえなくてね。京橋支店といえば、今の貝瀬支店長になる前にも、岸川部長、大和田常務と三代続けて、お前たち旧産業中央出身者が支店長を務めた。いわば産業中央出身者の本丸のようなところだ。それが俺たち元東京第一が集まる法人部に大口取引先の伊勢島ホテルを横取りされて、面白いわけはないからな。
半沢:ばかばかしい。同じ行内で足を引っ張り合いかよ。
時枝:支店長の貝瀬さんは見栄とプライドの塊みたいな御仁だからな。それに、その部下の古里って男もなかなかの狸だ。伊勢島のことは俺よりそっちのほうがよっぽど詳しい。あとはそこの二人に聞いてみてくれ。
半沢:分かった。
時枝:悪かったな。厄介事を押し付けちまって。
半沢:まったくだ。今度おごれよ。
時枝:そうしたいのはやまやまだが。しばらくは無理だ。
半沢:お前、まさか
時枝:名古屋の系列に出向が決まったよ。驚け、取締役待遇だぞ。
半沢:抗議しろ、時枝!今回の件はお前一人の責任じゃない。
時枝:無駄だよ。もう決まったことだ。それが銀行さ。お前は一番よく分かってるだろう。引き継いでくれたのが