ちょっと前のことになりますが、ある外国人の先生と話していたところ
「日本の居酒屋でお酒を飲むのって、"独自の掟"(おきて)がアリますね」
ということをおっしゃっていました。
日本人にとっては、あまり疑いを持たないルールなのですが、外国人にはとても「奇異」に見える。そんなもののひとつに「居酒屋での暗黙の掟」があるよね、というご指摘でした。
特に、職場のメンバーで居酒屋にいったときには、いくつかのルールがありますね、というお話をなさっていました。
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1.「とりあえずビール!」が不思議
多くの場合、「とりあえずビール!」からはじまることが多くないでしょうか・・・
なぜか(笑)ビールが飲めない人、嫌いな人にとっては、はなはだ迷惑な慣行ですね(笑)。
A先生によると、この慣習は「戸惑い」があったそうです。
彼によると''「'個人が好きなものを頼めばいいじゃない」'''と思うみたいです。
でも、飲めない人は別にして、みんな最初は、同じものを飲もうとしますね(これは挨拶を早く迎えたいからでしょうけど)。
2.「小さな皿の少ない料理を分け合うところ」が不思議!
大きなプレートにドカーンと料理がもられて、それを個別に一人ずつ食べることが慣習になっている西欧から見ると、「居酒屋の小さなお皿の少ない料理」は不思議に見えるらしいです。
A先生曰く、「小さなお皿の料理なのに、みんな少しずつ、小分けにして食べるでしょう? たとえば枝豆(えだまめ)とか、卵焼きとか。大皿ならわかるけど、居酒屋の料理って、そんなに大きくないでしょう。それをたくさん頼んで、少しずつ食べるっていうのが、不思議です」
言われてみれば・・・不思議。
なんでだろう。
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3.「挨拶にはじまり、挨拶に終わる」のが不思議
これは1に関係しますね、おそらく。居酒屋で飲むときって、特に職場単位でなんかでいくと、最初と最後に挨拶がありますね。
最初の挨拶の主要なメッセージは「みなさま、お疲れさまでした」。
最後の挨拶は「まー、いろいろあるけど、お互いに頑張っていこう」
ですよね。
まー、挨拶にもいろいろあるでしょうけど。
A先生曰く
「最初、サンボンジメは、何がはじまるのかと思いました! わたしはパニックです。何かの宗教か、おまじないかと思った」
そうです。
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わたしたちにとっては、あまり不思議を感じない慣行も、外部から見るとかなり不思議に見えるというのが興味深いところです。
そして、きっとこうした居酒屋文法(居酒屋独自の行動様式)は、わたしたちの集団形成のあり方に根ざしているのかもしれませんね。僕は文化人類学とか、民俗学、社会学が専門ではないので、よく知りませんが、A先生とは、そんな話をしておりました。
たとえば、わたしたちの文化風土には、「個人」より「集団・共同体」を重んじる、ということがよく指摘されますが、こうしたものが関係しているのかな、という仮説を持ちました。
たとえば、「個人での行動よりも集団での利益や規範を重んじる」のことは、かくして居酒屋での飲酒でも学ばれているのかもしれません。
もちろん、行きすぎた集団主義・共同体主義は、排他を生む素地になりますので、注意が必要ですけれども。
(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に掲載されていた記事を、加筆・修正したものです)