目を閉じると,風の匂いがした。果実のようなふくらみを持った5月の風だ。そこにはざらりとした果皮があり、果肉のぬめりがあり、種子の粒だちがあった。果肉が空中で砕けると、種子は柔らかな散弾となって、僕の裸の腕にのめり込んだ。微かな痛みだけがあとに残った。
「ねえ、今何時?」、いとこが僕に尋ねた。20センチ近く身長差があったので、いとこがいつも僕の顔を見上げるようにしてしゃべった。
僕は腕時計を見た。「10時20分」
「時計はあってる?」といとこが尋ねた。
「あってると思う」いとこは僕の手首をひっばって時計を見た。指は細くすべすべとしていたが、見かけより力は強かった。「ねえ、これが高いの?」
「高くは無い。安物だよ」時刻表にもう一度目をやりながら僕は言った。
反応はない。
いとこの方を見ると、彼は困ったような顔つきで僕を見上げていた。唇のあいだからのぞいた白い歯が、退行した骨のような見える。
「安物だよ」と僕はいとこの顔を見ながら、言葉を正確に区切ってで繰り返した。「安物だけど、けっこう正確なんだ」
いとこは黙ってうなずいた。
只要阖上眼睛,就能闻到风的味道。带有果实般膨胀感的,五月的风。风里,有熟到裂开的果皮,有果肉的黏黏的汁液,还有籽的微小颗粒。果肉在空中碎裂开来,籽就变成了柔软的霰弹般,钻入我露在外面的胳膊,只留下轻微的、疼痛的痕迹。
“哎、现在是几点?”堂弟问我。我们有着近二十公分的身高差,是以堂弟总是要仰着脑袋看着我的脸说话。
我看了一下手表:“十点二十分。”
“是准的吗?”堂弟问。
“我想应该准的。”
堂弟将我的手腕捉过来,看着表。没想到这细长滑溜的手指,却比看起来要有力。“这表很贵吗?”
“并不贵呢,便宜货来的。”我扭头又看了一眼站牌,轻轻说道。
没有回应。
于是我朝着堂弟那边看去,他正在疑惑般地仰着脑袋看着我,口缝中透出白白的牙齿,看起来好像衰颓了的骨头。
“是便宜货哟。”我一边看着堂弟的脸,一边仔细地重复着正确的语言,“便宜货是没错啦,可是时间还蛮准确呐。”
堂弟没说话,默默地点了点头。