【日本文学】夏目漱石-夢十夜第二夜2

【日本文学】夏目漱石-夢十夜第二夜2

2018-08-12    02'06''

主播: 啃日语的小虫子

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介绍:
 もし悟れなければ自刃する。侍が恥しめられて、生きている訳には行かない。綺麗に死んでしまう。  こう考えた時、自分の手はまた思わず布団の下へ這入った。そうして朱鞘の短刀を引き摺り出した。ぐっと束を握って、赤い鞘を向へ払ったら、冷たい刃が一度に暗い部屋で光った。凄いものが手元から、すうすうと逃げて行くように思われる。そうして、ことごとく切先へ集まって、殺気を一点に籠めている。自分はこの鋭い刃が、無念にも針の頭のように縮められて、九寸五分の先へ来てやむをえず尖ってるのを見て、たちまちぐさりとやりたくなった。身体の血が右の手首の方へ流れて来て、握っている束がにちゃにちゃする。唇が震えた。  短刀を鞘へ収めて右脇へ引きつけておいて、それから全伽を組んだ。―趙州曰曰く無と。無とは何だ。糞坊主めとはがみをした。  奥歯を強く噛み締めたので、鼻から熱い息が荒く出る。こめかみが釣って痛い。眼は普通の倍も大きく開けてやった。  懸物が見える。行灯が見える。畳が見える。和尚の薬缶頭がありありと見える。鰐口を開いて嘲笑った声まで聞える。怪しからん坊主だ。どうしてもあの薬缶を首にしなくてはならん。悟ってやる。無だ、無だと舌の根で念じた。無だと云うのにやっぱり線香の香がした。何だ線香のくせに。