雀:私、そんなの嫌ですよ。絶対嫌ですよ。
巻:どうしたんですか。
別府:若田さん、ピアノの若田さんの入りが遅れてて、五重奏のリハーサルができないそうなんです。
巻:リハなしでやるんですか。
別府:いえ、それは、若田さんも無理らしいんで。
巻:私達の出演はなし?
別府:プログラムが決まってるんで、出るらしいです。
雀:音源、流すんですって。私達、音源に合わせて、演奏してるフリするんですって。
家森:こんな仕事やる必要ない。帰ろう。
僕らは奏者なんだよ。フリだけしろなんて、バカにしてるよ。帰る。帰る。
巻:家森さん、やりましょう。ステージ立ちましょう。
だって、元々信じられないことだったじゃないですか。
私達、奏者として全然なのに、プロ名乗る資格ないのに、
普通の人ができるようなこともできないのに、
あんなに褒められて、大きいホールで演奏できるって聞いて、
嘘でしょって思ってたじゃないですか。
それやっぱり、そのとおりだったんですよ。
これが私達の実力なんだと思います。現実なんだと思います。
そしたら、やってやりましょうよ。
しっかり三流の自覚持って、社会人失格の自覚持って、
精いっぱい全力出して演奏してるフリしましょう。
プロの仕事を、カルテットドーナツホールとしての夢を、見せつけてやりましょう。