【朗読20160913】童話の名作(谷川俊太郎の「スイミー」)から引用~~けれど、海には、すばらしいものがいっぱいあった。おもしろいものを見るたびに、スイミーは、だんだん元気をとりもどした。
にじ色のゼリーのようなくらげ。
水中ブルドーザーみたいないせえび。
見たこともない魚たち。見えない糸で引っぱられている。
ドロップみたいな岩から生えている、こんぶやわかめの林。
うなぎ。顔を見るころには、しっぽをわすれているほどながい。
そして、風にゆれるもも色のやしの木みたいないそぎんちゃく。
そのとき、岩かげにスイミーは見つけた、スイミーのとそっくりの、小さな魚のきょうだいたちを。
スイミーは言った。
「出てこいよ。みんなであそぼう。おもしろいものがいっぱいだよ。」
小さな赤い魚たちは、答えた。
「だめだよ。大きな魚に食べられてしまうよ。」
「だけど、いつまでもそこにじっといるわけにはいかないよ。なんとか考えなくちゃ。」
スイミーは考えた。いろいろ考えた。うんと考えた。
それから、とつぜん、スイミーはさけんだ。
「そうだ。みんないっしょにおよぐんだ。海でいちばん大きな魚のふりをして。」
スイミーは教えた。けっして、はなればなれにならないこと。みんな、もち場をまもること。
みんなが、一ぴきの大きな魚みたいにおよげるようになったとき、スイミーは言った。
「ぼくが、目になろう。」
朝のつめたい水の中を、ひるのかがやく光の中を、みんなはおよぎ、大きな魚をおい出した。