「反面教師」江坂 亮 大阪府 20歳
お父さんを尊敬したことは、1度もなかった。
癇癪持ちで母を困らせ、話はつまらない、体型はだらしない。
なにひとつ見習う点などなく、むしろ、「反面教師」にしていたくらいだ。
僕はお父さんへの反抗として、誰よりも穏やかに生き、話はできる限り面白くし、ストイックに身体を引き締めていた。
でも、僕が大学生になって、一人暮らしをして、周りにいろんな環境下で育って友人たちを見て、気付いた。
僕のお父さんは、僕を誰よりも自由にしてくれていた。
僕の意思を尊重し、やりたいことはやらせてくれ、またなにひとつ僕に強制することはなかった。
そのことを、感謝したことはなかった。当たり前だと思って、気付かなかった。それがどれほど難しいことだと知らずに。
自分が今、楽しく生きているのも、なんの制約も持たせずに、お父さんが自由にさせてくれているおかげだ。
20歳となり、普段全く連絡を取らないお父さんからメールが来た。
「成人おめでとう。まるでダメな親父でごめんな。」
照れ臭いけど、返信をした。
「お父さんが、なにもかも僕に教えてくれました。ありがとう。」