水をかけてもかけても火が衰えない。後ろからも火の手が上がり、目の前にオレンジ色が広がる。火の粉がまるで雨のようだ。「ほんまに消えるんやろか……」。あまりにも無力に思えたと消防隊員が書いている▼22年前のきょう、震災に見舞われた神戸である。隊員たちの手記を集めた『阪神淡路大震災 消防隊員死闘の記』をログイン前の続き開くと、一人ひとりの迷いや恐怖がある。消火栓が使えず、限られた水をどこに向ければいいか分からない。自分も死ぬかもしれないとの思いが頭をよぎる▼多くの被害を出した火災は当時、戦時の空襲によく例えられた。あちこちで黒煙が上がり炎の広がりが止められない。まちを焼き尽くす焼夷(しょうい)弾に重なったのだろう▼地震の後に救出された約3万5千人のうち、約2万7千人が近隣の住民らに助けられたという推計がある。地域の結びつき、助け合いがどれだけ大切か。隣人の顔が見えにくい都市部でこそ教訓としたい▼「突然、家中が踊り出したように見えた」。熊本地震で被災した人の言葉を思い出す。例えばあす、就寝中に家具や家電が襲いかかってきたらと想像してみる。家具などの置き方を見直す。非常時の持ち出し袋を準備する。すぐにできる小さな備えがある▼神戸市にはかつて戦災も震災も耐えた防火壁があり、「神戸の壁」と呼ばれた。移設された淡路島を訪れると、コンクリートのひび割れがしわを刻んでいるように見えた。「忘れてはいけない」。声にならぬ声を聞き取りたい。