言叶之庭

秋月：  雪野さん 先の忘れてください  俺 やっぱりあなたのこと嫌いです  最初からあなたは 何だか  嫌な人でした  朝っぱらからビールを飲んで  わけの分からない短歌なんかふっかけてきて  自分のことは何も話さないくせに  人の話ばっか聞き出して  俺のこと生徒だって知ってたんですよね  きたないですよ そんなのって  あんたが教師だって知ってたら  俺は靴のことなんて喋らなかった  どうせできっこない 叶いっこないって思われるから  どうしてあんたはそう言わなかったんですか  子どものいうことだって  適当に付き合えばいいって思ってた  俺が何かに、誰かに憧れだって  そんなの届きっこない 叶うわけないって  あんたは最初から分かってたんだ だったら ちゃんと言ってくれよ  邪魔だって がきは学校に行けって  俺のこと嫌いだって  あんたは   あんたは一生ずっとそうやって  大事なことは絶対に言わないで  自分は関係ないって顔して  ずっと一人で 生きていくんだ  雪野： 毎朝…  毎朝ちゃんとスーツを着て 学校に行こうとしてたの  でも 怖くて どうしても行けなくて  あの場所で わたし  あなたに  救われてたの 夏が終わり やがて　冬服の季節が来て 期末（きまつしけん）試験では案の定ひどい点を取り 高価な革を何枚も無駄にし 冬休みには　またバイトをして 外出の服が１枚ずつ厚くなるたびに あの人は　どうしているだろうかと思う 歩く練習をしていたのは　きっと俺も同じだと　今は思う いつかもっと もっと遠くまで歩けるようになったら 会いに行こう