なぜ私たちはずっと黙って歩き続けているだろう。一緒に帰ろうと言ってくれるのはいつも遠野君からなのに。
なぜあなたには何も言わないんだろう。
なぜあなたはいつも優しいのだろう。
なぜあなたが私の前に現れたのだろう。
なぜ私はこんなにもあなたが好きなのだろう。
なぜ、なぜ。
夕日にキラキラしているアスファルト、そこを必死に歩く私の足元がだんだんと滲んでくる。
お願い。遠野君、お願い。
もう私は我慢することができない。
だめ。涙が両目から零れ落ちる。
両手で拭ってもぬぐっても涙が溢れる。
彼に気づかれる前に泣き止まなくちゃ。
私は必死に嗚咽(おえつ)を抑える。
でも、きっと彼は気づく。そして優しい言葉をかける。
ほら。
澄田、どうしたの!
ごめん、きっとあなたは悪くないのに。
私はなんとか言葉をつなごうとする。
ごめん。。なんでもないの。ごめんね。。
立ち留まって、顔を伏せて、私は泣き続けてしまう。
もう止めることができない。
澄田、という遠野くんの悲しげな呟きが聞こえる。
今まで一番、感情のこもった彼の言葉。
それが悲しい響きだということが、私はとても悲しい。
ヒグラシの声はさっきよりずっと大きく大気を満たしている。
私の心が叫んでいおる。
遠野君。遠野くん。
お願いだから、どうか。
もう。優しくないで。