あの時、演奏を中断した瞬間。
君のコンクールは終わった。
君は何のためにバイオリンを弾いたんだろう。
容赦のない人だ。何を見ても君を思い出す。
本当に容赦のない人だ。
僕の中にいる君ですら、諦めることを許してくれない。
あの時、君は何のためにバイオリンを弾いたのかな。
アゲイン
弾き直し、だめだ。弾き直したところはテンポがそろってない。
大切なのはイメージ、君はこの曲をどう弾きたい。
誰のために弾きたい。
あの時、君は何のため、誰のため弾いたの。
友人A、君がいいの。
僕は音が聞こえないんだ。
君を私の伴奏者に任命します。
あ、そうだ。僕は君のために弾こう。
また演奏が変わり始めた。
出だしはコンピューターのように無機質で譜面通りに正確に
途中から泣きじゃくる子供が鍵盤をたたきつけてように。
三度、その姿を変える。
あいつには何が起きたんだ。この変わりは半端ねえ。
三人の演奏者が弾いてるみたいだ。
演奏が変わるところが音が変わる。
音が煌めきだす。
演奏を中断しちゃった。失格だな。
暴虐非道誰かと一緒だ。
星は君の頭上に輝くよ。ありったけの君で
真摯に弾けばいいんだよ。
本当の君はショパンをどう弾きたい。
私たちはショパンじゃないもん。
君はどうせ君だよ。
君と交わした言葉、一つ一つが星のように降り注いでくる。
一人で見た星空は飲み込まれそうだ。怖かった。
渡と見た星空は移り気で、
椿と見た星空は底抜けに輝いてどこか不安げで、
君と見る星空はどんなだろう。
チョークのにおいがする。不細工にひび割れた窓ガラス、
遠くから運動部の声、
桜の花びらの影、かすかな寝息。
風景が変わる。
これは有馬のイメージ、有馬の世界に埋没してゆく。
満足の弾く演奏はできないかもしれない
でも弾くの、弾ける機会と
聴いてくれる人がいるなら、私 全力で弾く。
僕はただ一人でいいや
君だけでいいや、ありがとう、ありがとう。
どうしてだろう、我慢しないと泣いちゃいそう。
もう年かしらね、一途の思いを聞かされると切なくなる。
戻ってこい。
かすかな寝息聞こえる、猫みたいだ。
迷い込んだ一枚の花びら。
最悪の第一印象、友達を好きの女の子。
届くかな、届くかな。
やっと帰ってきた。
僕の中に君がいる、君がいる。
君がいるよ、有馬公生。
あの子の言った通りだ。
音楽は自由だ。君は自由なんだ。
ヒーローは屈しない、ヒーローは砕けない。
あの強い有馬はどこに行った!
あの孤高のピアニストは、僕のヒーローはどこに行った!
ヒーローは超合金で、ヒーローは負けない。
ヒーローは必ず勝つんだ。
これで、まるで人間じゃねえか!
モーツァルトは旅をしようと言った。
この先に何があるのかなんて分からない。
でも、僕らは歩きだしたんだ。
僕らはまだ旅の途上にいる。
僕は機械なら、ぼくは人形なら。
なんだよ、この気持ちは、何かが突き動かす。
そうだ、僕は椿と渡、君と同じ人間なんだ。