昔、ある殿様が、「鳥の中で、珍しくて、きれいなものがいたら、自分の屋敷に飼ってやろう」と言われました。それを聞いたら鳥たちは、なんとかして殿様の屋敷に飼ってもらおうと、たくさん集まってきました。
殿様の屋敷には、大きな池がありました。鳥たちは、殿様に自分をなるたけ、きれいに見せようと、池でようく体を洗ってから、殿様の前に出ようとしました。大勢の鳥たちが体を洗ったので、池の中にはいろいろな鳥の羽毛が落ちていました。
そこへ、一羽のからすが飛んできて、池のそばの木の枝にとまりました。そのからすは、ほかの鳥たちが、水遊びをして落とした羽毛を、せっせと拾いました。
さて、水遊びをした、きれいになった鳥たちは、次々に殿様の前に飛んでいきました。
「こんな鳥は珍しくもなく、きれいでもなく。わざわざ屋敷に飼うことはないぞ」
殿様は、次々に現れる鳥たちを見ながら、がっかりしたように、おっしゃいました。
「やれやれ、やっぱりだめか。このおれさまこそ、お屋敷に飼ってもらえると思ったのに…」
鳥たちは、残念そうにつぶやくのでした。すると、その時、池のそばの木にとまっていたからすが、さっと飛んできて、殿様の前に現れました。
「あっ?」
「ややっ!」
鳥たちはびっくりしました。なぜって、そのからすは今までに見たこともない、いろいろな美しい羽毛をつけ、誇らしげに、殿様の前に現れたからです。
殿様もびっくりなさいました。
「これはみごとだ。これまで、こんなきれいな珍しいからすは見たことがないぞ。さあ、お前をこの屋敷に飼うことにしよう。」
殿様は、そうおっしゃいました。ほかの鳥たちは羨ましそうに、そのからすを見つめていました。
「あっ、あいつの首のところの羽毛は、おれのもんだぞ。そうだ、さっき、おれが池で水遊びをしたとき、抜けた羽毛だぞ。」
それを聞いた、別の一羽は「そういえば、あいつの胸の毛は、おれの羽毛だ。さっきは、おれのを拾って、かってにつけたな。」
「おれの羽毛を返せ!」
「でたらめは、やめろ!」
そう言いながら、鳥たちは池の中で拾った羽毛を体中につけ、珍しい鳥に化けていた、一羽のからすをめがけて、飛びかかり、その羽毛を全部抜き取ってしまいました。
そこで、一羽のからすは元のみすぼらしい姿にかえり、ガア、ガアと、悲しそうに泣きたてました。今もって、そのからすが、ガア!ガア!と鳴くのは、そのためだそうです。