半沢直樹17
羽根専務:困りますねえ、東京中央銀行さん、お宅との窓口はこの私ですよ。そういうことでしたら、一言言ってくださればいいのに。
半沢:申し訳ございません。
羽根専務:それとも、私には言えない秘密の話でもあるのですか。
湯浅社長:私が話さなくていいと言ったんです。すみませんね、羽根さん。今日はちょっと個人的な要件なのでね。
羽根専務:そうですか。それなら、私が口を挟むようなことではありませんね。
湯浅社長:半沢さん、お話は私の部屋で。
半沢:はい。
湯浅社長:で、私に話というのは?
半沢:実は、金融庁から120億の損失を全額補填するようにと言われております。
湯浅社長:全額?しかし、あれは株の運用失敗による特損です。それを一気に補填するなんて無理だ。
半沢:金融庁の黒崎という検査官はこちらの言い分が通じる男ではありません。
湯浅社長:だったら、どうしろと
半沢:伊勢島ホテルには聖域があると聞きました。先代である会長がお持ちの絵画コレクション。そして、美術館建設のために購入した不動産です。それらをすべて売却すれば、100億以上の特別利益を上げることができると。本当ですか。
湯浅社長:本当です。だが、それらを売ることを、父は許さないでしょう。
半沢:どうしてです。ホテルそのものの存続が危ぶまれてるんですよ。この期に及んで、美術館も何もないでしょう。
湯浅社長:伊勢島美術館の建設は、会長に退いた父に最後の。いや、最初からの夢だったんです。私もできることならかなえさせてやりたい。
半沢:なるほど。まさに聖域というわけですか。お気持ちはわかりますが、このままでは金融庁検査を乗り切ることができません。湯浅社長、経営危機の時だからこそ、できる選択もあるはずです。その聖域に踏み込まなければ、このホテルを苦しめる先代の呪縛は永遠に解けないんじゃありませんか。
湯浅社長:分かりました。何とか父を説得してみましょう。
半沢:頼みます。そこにかけるしか我々が生き残る手立てはありません。