「春の臨終」
谷川俊太郎
私は生きるのを好きだった
先におやすみ 小鳥たちよ
私は生きるのを好きだった
遠くで私を呼ぶものがあったから
私は悲しむのを好きだった
もう眠っていいよ 子供たち
私は悲しむのを好きだった
私は笑うのを好きだった
やぶれた古い靴のように
私は待っているのも好きだった
昔の人形のように
窓を開けておくれ そうしてひとこと
誰かのどなり声を聞かせておくれ
そうだ
私は腹を立てるのを好きだったから
おやすみ 小鳥たち
私は生きるのを好きだった
私は朝 顔を洗うのも好きだった 私は