A 失礼ですが、いつかも汽車で御一緒になった様ですね。
B これは御見それ申しました。
そういえば、私も思い出しましたよ。
やっぱりこの線でしたね。
A あの時は飛んだ御災難でした。
B いや、お言葉で痛み入ります。
私もあの時はどうしようかと思いましたよ。
A あなたが、私の隣の席へいらしったのは、あれはK駅を過ぎて間もなくでしたね。
あなたは、一袋の蜜柑を、スーツケースと一緒に下げて来られましたね。
そしてその蜜柑を私にも勧めて下さいましたっけね。
……実を申しますとね。
私は、あなたを変に慣れ慣れしい方だと思わないではいられませんでしたよ。
B そうでしょう、私はあの日はほんとうにどうかしていましたよ。
A そうこうしている内に、隣の一等車の方から、興奮した人達がドヤドヤと這入って来ましたね。
そして、その内の一人の貴婦人が一緒にやって来た車掌にあなたの方を指して何か囁きましたね。
B あなたはよく覚えていらっしゃる、車掌に「一寸君、失敬ですが」と云われた時には変な気がしましたよ。
よく聞いて見ると、私はその貴婦人のダイヤの指環を掏ったてんですから、驚きましたね。
A でも、あなたの態度は中々お立派でしたよ。
「馬鹿な事を云ってはいけない。そりゃ人違いだろう。何なら私の身体を検べて見るがいい」
なんて、一寸あれ丈けの落着いた台詞は云えないもんですよ。
B おだてるもんじゃありません。
A 車掌なんてものは、ああした事に慣れていると見えて、中々抜目なく検査しましたっけね。
貴婦人の旦那という男も、うるさくあなたの身体をおもちゃにしたじゃありませんか。
でも、あんなに厳重に検べても、とうとう品物は出ませんでしたね、みんなのあやまり様たらありませんでした。
ほんとに痛快でした。
B 疑いがはれても、乗客が皆、妙な目附で私の方を見るのには閉口しました。
A 併し、不思議ですね。
とうとうあの指環は出て来なかったというじゃありませんか。
どうも、不思議ですね。
B …………
A 失敬失敬。
咱们好像什么时候在火车上照过面吧。
B 恕刚才眼拙。
您这么一说,我也想起来了。
应该就在这条线路上吧。
A 那时候您可算是飞来横祸啊。
B 真是呀,您说的太对了。
那时候我可真是没辙了。
A 您是在开出K站不久之后坐到我旁边来的吧。
拎着一袋橘子,提着一只旅行箱。
您还递给我橘子呢。
说句老实话,我真觉得您举止有些唐突,似乎有点过于热情了。
B 您说的是。那天真是的,连我自己都搞不懂是咋回事儿。
A 这么一来二去之间,从隔壁一等车厢那儿吵吵嚷嚷地进来一帮情绪激动的人。
其中有位贵妇人对和她一起进来的列车员低声说了些什么,并指了指您。
B 您记性可真是不错。
当列车员朝着我说“喂,你!打扰了”的时候,我还真是莫名奇妙。
仔细一听才知道说是我偷了那位贵妇人的钻戒。
当时我就震惊了。
A 不过,您当时那种镇静劲儿可让人打心眼儿里佩服。
“这事儿可不能乱说。你们肯定是搞错人了。要不然可以来搜我身子。”
如此镇定自若的台词,一般人可说不上来啊。
B 您可别这么恭维我。
A 看来列车员对于那种事情也习以为常了,一处不漏,检查得真是相当仔细。
贵妇人的丈夫,不是也把您的身体当作玩 意儿似的上上下下搜查了个遍嘛。
不过,如此严密的搜查最终也没翻出什么来。
看他们认错的样子,真是痛快得很呐。
B 即便知道是被冤枉的,乘客们还都用怀疑的眼神瞧我,这让我挺委屈的。
A 可是,确实令人费解呀。
那枚钻戒终究还是没被找出来嘛。
思来想去,仍然想不出来所以然呐。
B ……
bgm:恋 ~koigokoro~