【古美門】素晴らしい!皆さんのお考えに感服いたしました。さすがふれあいと絆の里だ。それではそのように手続きしましょう。黛君あとは頼んだ。さようなら
【黛】先生これでいいんですか
【古美門】いいんだよ
【黛】でも
【古美門】彼らが良いと言ってるんだから。ですよね皆さん
【村人たち】ええ、この世には金よりも大事なものがありますから。な!
【古美門】見たまえ彼らの満足そうなこの表情を。ズワイガニ食べ放題ツアーの帰りのバスの中そのものじゃないか。黛君よく覚えておきたまえ、これがこの国の馴れ合いという文化の根深さだ。
人間は長い年月飼い馴らされるとかくもダニのような生き物になるのだよ
【村人】何!?俺たちのこと言ってんのか
【古美門】他に誰かいますか?自覚すらないとは本当にうらやましい。
コケにされているのも気づかないまま墓に入れるなんて幸せな人生だ
【村人】あんたちょっとひどいんじゃないか?
【古美門】申し訳ありません最初に申し上げたとおり皆さんのような惨めな老人共が大っ嫌いなもんでして。
【村人たち】
おい若造、お前何なんだよ!お前そんなに偉いのか!
そうよ!目上の人を敬うってことがないの!?
私たちは君の倍は生きてんだ!
【古美門】倍も生きていらっしゃるのにご自分のこともわかっていらっしゃらないようなので教えて差し上げているんです。いいですか。皆さんは国に見捨てられた民、棄民なんです。国の発展の為には年金を貪るだけの老人なんて無価値ですから、ちりとりで集めてはじっこに寄せて、羊羹を食わせて黙らせているんです。大企業に寄生する心優しいダニそれが皆さんだ。
【黛】先生もうやめてください。
【村人】てめえだってダニに寄生してる黴菌じゃねえか!あたしたちの何が気に入らないの!
【古美門】
かつてこの地は、一面に桑畑が広がっていたそうです。
どの家でも蚕を飼っていたからだ。それはそれは美しい絹を紡いだそうです。
それを讃えて人々は、いつしかこの地を絹美と呼ぶようになりました。
養蚕業が衰退してからは稲作に転じました。
日本酒に適した素晴らしい米を作ったそうですが、政府の農地改革によってそれも衰退した。
その後はこれといった産業もなく、過疎化の一途を辿りました。
市町村合併を繰り返し、補助金でしのぎました。五年前に化学工場がやってきましたねえ。
反対運動をしてみたらお小遣いが貰えた。多くは農業すら放棄した。ふれあいセンターなどという中身の無い立派な箱物も建ててもらえた。使いもしない光ファイバーも引いてもらえた。ありがたいですねー。絹美という古臭い名前を捨てたら南モンブラン市というファッショナブルな名前になりました。なんてナウでヤングでトレンディなんでしょう。
そして今、土を汚され、水を汚され、病に冒され、この土地にも最早住めない可能性だってあるけれど、でも商品券もくれたし、誠意も絆も感じられた。ありがたいことです。
本当によかったよかった。これで土地も水も甦るんでしょう。病気も治るんでしょう。工場は汚染物質を垂れ流し続けるけれど、きっともう問題は起こらないんでしょう。
だって絆があるから!