《罠の中》(四) [東野圭吾]

《罠の中》(四) [東野圭吾]

2016-05-04    06'45''

主播: 大黒

376 21

介绍:
《罠の中》(四) 原文 「ねえ、叔父さんってどういう方なの?」 助手席の百合子が少し心配そうな顔をして訊いた。ハンドルを握っている利彦は、「一言では言いにくいな」と前を見たまま首を捻った。 「まあ、ただものではないね。不動産業を営んでいて、さらに内職に金貸しをしているな人だよ。だから金は持っているけれど、あまり評判のいいほうじゃない」 「なんだかこわそうな人なのね」 百合子が心細そうな声を出したので、利彦は声を出して笑った。 「仕事柄、ある程度人に嫌われるのはしかたないよ。だけど僕にはよくしてくれる。学生時代からずっと食わせてくれてるし、就職だって世話してくれた。まあ金に少々うるさいのは諦めているんだ」 山上孝三の邸宅は、閑静で空気の綺麗な高級住宅街の中に建っていた。駐車場も広く、孝三のベンツの他に車三台を置くスペースがある。その駐車場が満車になったのは、桜が散って何週間か経ったある日の夕方のことである。 浜本利彦と高田百合子の二人が、この日山上家を訪れた最後の客だった。二人が玄関に立つと、お手伝いの玉枝と共に孝三と妻の道代まで迎えに現われた。 「いやあよく来た。皆、気をもんでいたところなんだ。なにしろ主賓が来ないのでは話にならんからな」 孝三は、突き出た太鼓腹を揺すりながら豪快に笑った。 「ごめん、ちょっと急な仕事が入っちゃってね。これでも急いで来たつもりなんだよ」 「こんな時まで仕事しなくてもいいだろう。――それより、こちらが……?」 「高田百合子さんだよ」 利彦が紹介し、百合子もぺこりと頭を下げた。 「そうですか。利彦の叔父の孝三です。まあひとつよろしく頼みますよ。こいつは案外世話のやけるところがありますんでな」 そしてまた彼は大きな声で笑ったが、その横から道代が彼の脇をつついた。 「あなた、こんなところで……」 「おおそうだな。早く上がれ上がれ」 孝三が百合子の背中を押すようにしながら居間の方に向かい、それから少し遅れて利彦が続いた。すると利彦の後ろにいた道代が彼の横に寄って来て、「綺麗な人ね」と囁いた。それで利彦が彼女の顔を見返すと、 「さ、行きましょう」 と言って、足早に先に進んだ。