「卒業」転入生 (1)
彼と初めて会ったのは小学校五年生の時だった。転入生として紹介された時、一瞬教室がざわついた。彼は重度の小児麻痺で左手と左足が思うように動かない。それは誰が見ても明らかだった。それでも彼は一生懸命に歩き、教壇の前に立つと胸を張って自己紹介し、仲良くしてくださいと頭を下げた。その姿に僕は幼心に感動した。ハンデを背負ってもたくましく生きている。そんな印象だった。でも子供は素直で残酷だ。異質なものを見る目付きで誰も彼に近付こう -としない。
「ヤー」僕は教室で一人ぼっちになってる彼に声を掛けた。それから振り向いてクラス全員に仲良くしようと呼び掛けた。自分で言うのもなんだが、成績は学年で一番、スポーツ万能でクラス員長もやっていたから、誰もが僕に従った。その僕を彼は羨望のまなざしで見詰めていた。今思えば、心のどこかで優越感に浸っていた。何より感動したというのは実は嫉妬だったように思う。大人顔負けの偽善者だったかもしれない。
一方、彼は驚くほど素直で真っ直ぐな性格だった。困難をものともしない強い心を持っていて決して自分を恥じるような素振りを見せなかった。それが僕には眩しく、いってみれば最大のライバルが現れたと直感したのだ。誰にも負けてはいけない。両親や周りの人間に期待されて育った僕に僅かだが焦りが承知だ。普通なら彼を敵視することもあるだ ろう。だが、僕はそうしなかった。彼の側にいることで自分の優秀さをアピールするという作戦に出たのだ。
(つづく)