谷川俊太郎の詩「ほほえみのわけ」
うまれて きたことを
はに かんでいるかの ように
あかんぼが ほほえむ
あのよの はなの かおりを
もう かいだかの ように
ぼけた じいさんが ほほえむ
うまれる まえの わすれものを
たったいま みつけたかのように
しょうじょが ほほえむ
このよに ゆるせぬことは
なに ひとつないかの ように
ねたきりの ばあさんが ほほえむ
わらいの わけを
たずねることは できる
だが ほほえみのわけは
たずねる ことが できない
いきる ことの なぞを
とかずに おこうと いうかの ように
みほとけが ほほえむ
かなたからの かすかな かぜに
くすぐられたかの ように
ひとしれずいけが ほほえむ