「届いたやさしさ」
長友 和久 熊本県 34歳
僕は二通の年賀状を大切に持っている。
どちらも父が僕宛に書いてくれたものだ。
就職活動がうまく行っていなかった僕は、大学4年生の12月にようやく就職先が決まった。
年を越す前に決まってほっとしたのを覚えている。
正月に届いた父からの年賀状には、祝福の言葉と社会人としての心構えが綴られていた。
喜びと勇気が湧いてきて、希望に満ちた社会人一年目をスタートできた。
その数年後、父はがんで亡くなった。社会人としてようやく自信がついてきた頃だった。
遺品整理をしている時、父の書斎の引き出しから僕宛の年賀状が出てきた。年度は僕が大学卒業の年だ。
そこには、「就職活動に失敗したくらいで何だ!もう一年がんばれ!」と励ましのメッセージが書かれていた。
父は、僕が就職できなかった時のために、もう一通の年賀状も準備してくれていたのだ。
出されることのなかった年賀状から、数年の時を越えて父のやさしさが僕に届いた。
今でも僕は二通の年賀状をよく読む。そして父のように思いやりのある人間になりたいと思うのだ。