「チョコレートの約束」(巧克力的约定)日本散文

「チョコレートの約束」(巧克力的约定)日本散文

2016-11-20    05'42''

主播: 光金大叔

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介绍:
大賞 「チョコレートの約束」 小玉 弘子(36歳 主婦)  16年間、私は夫との約束を破り続けている。いつの間にか、私たち夫婦の間に暗黙の約束ができていた。それはよくある言葉だけれど、嘘はつかない、というものだ。その約束を、私はずっと破り続けている。とはいえ、浮気をしているとか、夫に内緒で高級ブランドのバッグを買ったなどではない。ただ、嫌いなチョコレートを大好きだと言い続けているのだ。  夫に初めて嘘をついたのは、初デートのときだった。「ドライブに行こう」と誘われ、迎えに来てくれた夫の車に乗り込むと、芳香剤とはあきらかに違ういい香りがした。思わず「わぁ、いい匂い」と言うと、夫が「どうぞ」と後部座席を指差した。そこには、大きな紙袋があり、中を見てみると数えきれないくらい大量のお菓子が入っていた。よく見てみると、そのお菓子のどれもがチョコレートばかりで、いい匂いの正体は、甘いチョコレートの香りだったのだと気づいた。 驚いた私が「どうしたの? こんなにいっぱい」と言うと、「どういうのが好きなのかわからなかったから」と、照れ隠しなのか、視線を合わせずぶっきらぼうな口ぶりで言ってきた。どうやら、同じ職場の人に私の好みをリサーチしたらしく、そこでチョコレートが好きという間違えた情報を手に入れたらしい。  けれど、その横顔はどこか誇らしげで、私より10歳も年上なのに、まるで、俺って凄いでしょ? 褒めて褒めて、と言っている少年のように見えた。そんな姿が愛おしくなり、思わず言ってしまったのだ。「ありがとう!チョコレート大好きだから嬉しい」と。  今思えば、すぐに訂正すれば良かったのかもしれない。けれどデートの度に頬を緩ませて嬉しそうにチョコレートをプレゼントしてくれる夫にチョコレートが苦手だとは言えなかった。  チョコレートは夫の愛情なのだ。その愛情表現は結婚した今も変わっていない。事あるごとに、いや、何もなくてもチョコレートをお土産に帰ってくる。真実を夫に打ち明けようと思ったことは、何度もある。二人でほろ酔いになり饒舌になっているとき、一緒にテレビを見ていて、家族へ自分の秘密を暴露するという番組をやっていたときなど、今、言ってしまおう、と思ったことは幾度とあった。  けれど、そんなふうに私が決心したときに限って夫は「嘘はだめだよね」とぽつりと言うのだ。もしかして夫は、私がチョコレートを好きなフリをしていることを本当はすべて知っているのではないだろうか? 優しい夫のことだ。きっと、そうだ、と思い言おうとした矢先「俺に嘘ついてないよね?あるわけないか。約束してるし」とピシャリと冷や水を浴びせられる。言い出せないまま、月日が経てば経つほど、さらに言い出しにくくなり16年が過ぎた。  最近になって考えた。いまさらカミングアウトするのもどうなのだろう?けれど、この先ずっとチョコレートを好きだと言って約束を破り続けるのも心苦しい。そこで、私はひとつの結論を出した。  嘘を本当にしてしまえばいいのでは? 本当にチョコレートを好きになればいいのではないだろうか。これは名案だ。  その日から私の挑戦がはじまった。  いきなりチョコレートを好きにはなれない。そこで、毎朝ココアを飲むことにした。おやつには夫が買ってきてくれたチョコレートを大切に食べていると見せかけて、ひとかけ、食べる。チョコレートを好きになる。目標は私か夫が亡くなる直前までだ。 心の底から笑顔で「今までチョコレートありがとう」と夫に感謝の気持ちをこめて伝えたいと思っている。もちろん、長年、約束を破っていた期間があることは内緒だ。  終わりよければすべてよし!  そんな将来を思いながら、今日も私は夫が買ってきたチョコレートを齧っている。