毎日新聞社賞
「憎まれているんよ。」
今村 達哉 大阪府 27歳
母の声が聞こえてきた。かすかに、だが、確かに聞こえてきた。
幼稚園の同窓会、酒の席だ。声が震えている。泣いているのか。
母が泣くことなど滅多とない。酒が入って感傷的になっているのか。
成人式が終わり、子供だけでなく、親も集まっていた。母にとっては久しぶりに会うママ友は心を許せる存在だったのだろうか。
パティシエになった友人もいた。スポーツで高校に行った友人は故障したと笑っていた。昔好きだった女の子は働いているキャバクラのオーナーと結婚するらしかった。
両親が離婚したのは私が高校生の頃だ。父と僕と弟で一緒に暮らしたが、父が家の中で暴れるようになった。中学一年生をしていた弟は不登校になった。高校でも引きこもり、大学でもゲームをしているだけだった。私が浪人した夏、父から離れた。 私は高校一年生の頃、テニスの大会で3位に入賞した。親子関係のストレスは才能と努力を無に帰すようだ。私はPTSDとイップスになった。試合に集中できない。手首が硬直し初心者より下手になった。得意だった勉強もできなくなった。忘れたいことを忘れられず、覚えたいことを覚えられないようになっていった。 就職活動を迎えた。自己分析が必要だという。昔の記憶を呼び起こす。私はうつ病を発症した。多いと思っていた友人はみんな離れていった。そんなときでも母だけは側にいてくれた。なんとか勉強はできたので大学院に進学した。自主的に研究ができるほど、生きることに一生懸命になれなくなった。もう昔のように未来を描けない。それでも母は私の味方だ。「あんたの好きにしたらええんよ。」そんな言葉をかけてくれる.
「いつもありがとうな」
人の安全を守る仕事をする決心ができた僕は、この父親と母親がいたおかげだ。
先月、私は27歳の誕生日を海外で迎えた。国連で家庭内暴力に苦しむ人を支援している。