親子の日賞「親子の日」
「今日も母ちゃん発進!!」
山﨑 理恵 山口県 32歳
子ができた、とわかった時、嬉しさより先にわいた感情は不安だった。
私は幼い頃、母を病で亡くしている。母を想う時、頭に浮かぶのはおいしい料理に手作りの服、そして母の笑顔。私にはほど遠いような「賢母」の図だ。私がそうなることなど、永遠にない。そう思っていた。そして私よりも早く両親をなくした夫は「父親かあ」明らかにイメージできていないようだった。
しかし、十月十日は予想以上に早く、更に息子は予定より半月以上早く産まれてきた。「お母さんがんばって!!」と心の準備も不十分なまま迎えた陣痛は激痛で、もうお母さんか、と他人事のように思った。けれど「元気なお子さんですね」と初めて子をみた時、何かを想うより先に、まっすぐ涙がでた。母の顔が浮かんだ。夫は「あー」とか「ひゃー」とか心の高鳴りがそのまま声になっていた。
「新しい家族の始まりですね」と看護士さんが言った時、夫は顔をぐしゃぐしゃにして泣き出し、私もまた涙がでた。ただ、幸せだけが体にまとわりついた。
それから一年、急スピードで成長する息子は今、家中走り回っている。目を離したほんの一瞬でたんこぶを作ったり、大泣きしたりする。親とはこんなに大変なのか、が私と夫の本音である。 …けれど、それがすごく楽しい。毎日、小さな幸せがゴロゴロしていることに気づく。誰かから「お父さん」「お母さん」と呼ばれるだけでにやにやし、子供の笑い声につられて大笑いしてしまう。私達は、子供を前に時折はっきり気づくのだ。自分達の中にはちゃんと、両親が生き続けていたことに。私達はずっと、親子の輪にいて、今またひとつの輪を作っていることに。
…息子よ、私達を親にしてくれてありがとう!
いつか本気でウザがられる日まで、彼を抱きしめてやろうと思う。
さあ、今日も母ちゃん、発進!!