【2日目】-7
それは我ながらすごく意外なことだった。だって普段なら、自分のペースを乱されることをとても嫌うのに。たとえ5分でも無意味な時間を過ごすことが許せなくて、だからいつもじっとしていられない。2つ以上のことを同時に進めていて当たり前。そんなせっかちな私が今は、来るかどうかもはっきり分からない人を、ただ待っている。それ以外にすることが何もない。だけど不思議と無意味だとは思えない。いや、とっても無意味だなあーと思っているのかもしれない。どちらにせよ、良い気分だ。
「ごめんなさーい!!」
メグミさんが来たのは7時半を過ぎてからだった。
「キッチン用品とかを夢中で見て歩いてたらいつのまにかすごく遠くまで行ってしまってたみたいで、電話もなぜか繋がらなくて……!」
申し訳なさそうに息を切らせて説明する彼女を、とっても愛らしいなと思った。
「ぜーんぜん。なんかボーッとしてたら気持ちよかったー」
待っていた時間は、今こうして彼女が来てくれたことより、一層素敵なものになった。
「こっちのお菓子作りの道具ってすごくカワイイのがいっぱいあるんですよ。日本で買えるものもあるけど、こっちで買ったほうが断然安いんですよね」
両手にたくさん袋を抱えてる。そっか、明後日の朝にはもう日本へ帰るんだもんね。まだ始まったばかりで先が長い私とは時間の捉え方が違う。私なんか今日、ほとんどぶらぶらしてただけで何もしていないもの。
カフェのテラス席で夕食を食べた。彼女は26歳。歳よりも大人っぽく見えたのはきっと日々自分の腕を磨くことに向き合てきた、職人さんというお仕事のせいだろう。