天声人語『ソフト不正騒動のあとに』

天声人語『ソフト不正騒動のあとに』

2017-01-20    03'37''

主播: 天声人語

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介绍:
刑事裁判で真実を知る者は神様のほかにいる。それは目の前の被告人である。元裁判官の原田国男さんが著書でそう述べている。東京高裁時代に20件以上もの逆転無罪の判決を言い渡した▼被告人が心を開いて大事な事実を語れるよう、雰囲気づくりに気を配った。無職の被告人に「職業は無職ですね」と決めつけず「今、仕事はログイン前の続きどうなっている?」と問いかける。故郷の様子を聞くこともあったそうだ(『逆転無罪の事実認定』)。限られた証拠をもとに、ひとの一生を左右する判決を下すことの難しさを思う▼誤った判断が、将棋界を深く傷つけてしまった。対局中に将棋ソフトを使ったと疑われた三浦弘行九段が出場停止処分を受けた問題で、結局、不正の証拠はなかった。日本将棋連盟の谷川浩司(こうじ)会長はきのう、責任を取って辞任すると発表した▼会長は「辞任で誠意を示す」と語ったが、連盟として事の経緯をどのように反省しているのか、伝わってこなかった。ひとりの棋士人生を台無しにしかねなかったことを思うと、後味の悪さが拭えない▼プロ棋士との対局歴がある作家の山口瞳は、将棋連盟は「オバケ屋敷」だと述べたことがある。神童として騒がれた人たちばかりが角逐するすごい世界だという、褒め言葉だった。そんな彼らがいま、休むことなく成長するソフトという人工のオバケに翻弄(ほんろう)されている▼棋士同士は言うまでもなく、ファンからの信頼をどう取り戻していくか。人間だけが考え、できることである。
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