天声人語『スマホの吸引力』

天声人語『スマホの吸引力』

2017-01-19    03'42''

主播: 天声人語

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介绍:
指弾とは誰かを非難することである。この人の場合は、指先を動かしてつくった短文が弾になって飛んでくるようだ。米大統領への就任式を控えるトランプ氏が、ツイッター攻撃を続けている▼選挙で対立候補を支えた人たちをこきおろし、メキシコに工場をつくる自動車会社を非難する。早朝の書き込みが多いと聞くと、寝ても覚ログイン前の続きめてもスマホから離れない姿を想像してしまう▼スマホは操作しなくても、そばにあるだけで注意が散漫になる。そんな実験結果を北海道大学の河原純一郎(かわはらじゅんいちろう)特任准教授らが発表した。大学生40人を2組に分けてパソコンで作業をさせた際、片方は電源を切ったスマホを目の前に置き、片方は代わりにメモ帳を置いた。スマホ組のほうが1・2倍、作業に時間がかかった▼「画面に触れなくても、視界に入るだけで意識がスマホに向かってしまうのでは」と河原氏は話す。たしかにポケットにあるだけで気になる存在である。人により影響の程度は違うだろうが、引き込む力は侮れない▼先頃亡くなった社会学者ジグムント・バウマン氏は、携帯電子機器を持つことで人は「孤独という機会」を捨てると書いた。孤独こそは、考えを整理したり煮詰めたり、反省したり想像したりするよすがなのだと訴えた(『リキッド・モダニティを読みとく』)▼スマホから何日も離れ思索する。筆者もそんな時間に憧れるが、結局小さな機器に頼る日々である。振り回されぬよう、上手な距離の取り方を思索してみたい。