四月初めのある朝、私はいつものように、電車から降りて、春の朝らしい日差しを楽しみながら、学校への道をゆっくり歩いていました。
途中、公園の桜並木を通り越して、舗装道路に差し掛かったころ、一人の生徒が私のそばを急ぎ足で通り過ぎました。まだ、制服のま新しい、入学したばかりの生徒でありました。まもなく、また、私の後ろから生徒が来て、「おはようございます。」と、あいさつしました。すると、私を追い越した新入生が急に立ち止まり、私が近づくと、帽子を脱いで、「おはようございます。」とあいさつしました。そして、「先生、私はさっき先生だということを知りませんでした。」と言って、もう一度頭を下げました。思わず私も頭を下げました。
考えてみると、まことにうらやましい言動であります。だれでも、自分の誤りに気づいたとき、これほどこだわりなくその非を認め、これほどすなおにその非を改めることができたら、どんなに幸福でしょうか。そういう生徒に出会った私まで、明るい心持ちにされて学校の門を入りました。