《旅》
海沿いにあるホテルの部屋にいた
きみが窓を開けると
潮騒(しおさい)が不意と飛び込んで来て
先刻(せんこく)から聞いているラジオの音楽と重(かさ)なった
きみの背中を見ていた
動悸(どうき)が 穏やかな時間を拒もうとしている(こばむ拒む)
ぼくは煙草(タバコ)に手をやるしかなかった
明日になれば
この旅が終ってしまうなんて
きみは信じていないだろう
《北》
ぼくが憧れていた南国の夏を
そっくり持っていた
ほとばしる熱気(ねっき)の中を (迸るほとばしる 迸出)
自由に泳ぎ回る体を持っていた
それでも淋しがるきみを見つけて
ぼくはやっと北に帰ることが出来たようだ