《交渉人》序章一 [五十岚贵久]

《交渉人》序章一 [五十岚贵久]

2016-02-29    03'22''

主播: 大黒

256 10

介绍:
《交涉人》序章一原文 ホワイトボードをマジックで叩く乾いた音がした。 「聞いてるのか、遠野」 呆れたようにスーツ姿の石田修平が言う。遠野麻衣子は慌てて会議室の長テーブルに置かれていた簡易印刷の教則本を取り上げた。この講習の後のことばかり考えて、説明を聞いていなかった。 頬が熱い。やれやれ、というように石田が角張った顎を前に出す。 「マニュアルを開いて。二章だ」 マジックでボードに“特殊捜査班”“警視庁警護課”という二つの単語を書いて丸で囲った。背が高いために、やや前屈みになっている。 「三十二頁からだ」 パイプ椅子に腰を下ろす。長い足を組んだ。言われるままに、麻衣子はマニュアルの文章を声に出して読み始めた。まだ顔は熱いままだった。 「過去の事例においても、犯人が立て篭もる時間が長期に及ぶほど、人質の生命は危険に晒される確率が高まる。同時に、犯人自身も自殺を図るケースが数多く見られ、捜査官は事件においては早期解決を心掛ける必要がある。また、捜査官は犯人の武装並びに自殺手段の解除を徹底し、人質及び犯人の生命を保存する義務を有する」 読むながら、座っている石田の横顔に目が行ってしまうのを自分でも止められない。 短く刈った髪、頑固という言葉をそのまま形にしたような口元。愛想がいい、とはお世辞にもいえないだろう。時々目が子供のように輝くことを除けば、だが。 三十七歳という年齢の割りには若く見える。筋肉質の体は二十代といっても通りそうだ。刑事という職業柄だろうか。石田修平警視正は警視庁でも公安部と並んでエリートが配属される警備部警護課特殊捜査班の課長代理で、遠野麻衣子の研修講師だった。 「集中して」 横を向いたまま石田が言った。マニュアルの頁をめくる。それにしても、と思う。どうしてこんな人を好きになってしまったのだろう。