《罠の中》(三) 原文
「ふうむ」
色白の男は煙草を吸い、乳白色の煙をたっぷりと吐き出した。そして眉を寄せ、二、三度に首を動かす。「だめだな、やっぱり。眠らせるには睡眠薬を使わなきゃいけないが、そんなものは簡単に検出されてしまう。それに眠ったからといって、必ずしも溺死するとは限らない。むしろ、しない確率のほうが高い」
「なんだ、これもだめか」
年少の男が溜息をついた。
「いやしかし、風呂で死ぬというのはいいな」
色白の男が意味あり気な言い方をしたので、他の二人は彼の顔に注目した。
彼は続けた。
「風呂というのは、ひとりっきりになれる数少ない場所だ。他ではできないことでも、風呂なら可能だということもある。たとえば、わざとガスを漏らせて、風呂場だけを爆発させる。入浴中の人間ならひとたまりもない」
「だめだそんなのは」
年長者があわてたようすで言った。「火を使うのはいかん。万一のことがある」
「ほんの一例だよ。ほかにも手はある」
「たとえば?」
「たとえば――」
色白の男は一段と声を落として、自分の考えをしゃべり始めた。