天城の雪
朝まだ眠っていた間に静かな雨が降っていた。久し振りの雨であった。日ごと吹きつづけていたはげしい風がやんで、しっとりと濡れたこずえを見れば、いかにも山の湯らしい気分をしみじみ感じさせられるのであった。
しばらく聞かなかった小鳥の声(こえ)さえ、今朝は軒近く落ちついている。
近くの柴山には淡い霧が漂っている。なんとなしに春がきたような暖かさである。
私は、ふと天城をみた。そこには真っ白な雪がたにを埋めていた。今朝の雨が、天城では雪になったのであった。木の深いとこるだけが黒くとりのこされて、木の浅いところや、草山になっているあたりは、すっかり雪に被われてしまった。それが里ちかくになるにつれて草山を登っている道のみがはっきりと白く雪をあらわしているところもある。
雪に包まれた天城は昨日とは見違えるほどに尊くも、寂しく、高くも思われる。
たしかに雪をいただく山を見れば、私自身の魂までが遥かな世界に還ってゆくような気がする。