ギンコ:その竹林で休んでいると、奇妙な男に声をかけられた。
キスケ:あのう、もし、旅の方で?
ギンコ:ああ、そうだが...
キスケ:それなら、山を降りるんでしょうな。
ギンコ:ああ、この西の方へな。
キスケ:それはちょうどいい。ついて歩いてかまわんだろうか?
ギンコ:道に迷ったのか?
キスケ:ああ、どうしても竹林から出られんのだ。
ギンコ:よほどの方向音痴だな。
キスケ:困ってたんだよ。もう3年も人通りがなくてなあ。
ギンコ:三年?
キスケ:ああ、おかしいだろうが、俺はずっとここから出られずにいるんだよ。
キスケ:もともと麓の里のものなんだがな。
ギンコ:なんだ、地元もんかよ。日も見える無いわけがないでなし、何で方角を失うのやら…
キスケ:それが自分でもわからんのだよ。
ギンコ:しかし広い竹林だな。...あ!クソ、また戻った。どういうこった?磁石は狂っちゃいない。俺たちは初めて西へ向かってる。なのに気がついたら進路がずれて、ずれてずれたあげく、一周してる。
キスケ:そなんだ、自分の意思で進めなくなる。
ギンコ:何なんだ、こりゃ。
キスケ:あんたも捕まったんだな。こうなったら、とりあえずここで俺らと暮らすかい?
ギンコ:冗談じゃねえぞ、オイ!うん?他にもいるのか?
キスケ:ああ、もともとここに住んでた親子があってな。あっ。
セツ:キスケ!
キスケ:母はもういないが、娘とは今じゃ夫婦だ、もともと幼なじみだったし。ま、不幸中の幸いだ。
ギンコ:へえ...
キスケ:旅の方だ。ちょっと話をな。嫁のセツだ。ギンコさん、付き合わせて済まなかったな。俺はもう家に戻るよ。あんたも休んでいくか?
ギンコ:いや、もう少し別の方法を考えてみるよ。
キスケ:そうか、それじゃ、元気でな。