皆さんこんにちは。
今回紹介したいのはまた秒速5センチメートルです。
これはある日本人が書いた分析文です。
最初に違和感を感じたのは貴樹が明里に会うために栃木県の岩舟に電車で向かうシーンだ。
この電車の旅の描写がやたら長いしかも暗く不吉で終始不安感がつきまとう。
恋する相手に1年ぶりに会えるという高揚感嬉しさがほとんど見られない。
描写されるのは真っ暗な車外、今にも消えそうな電灯、だれもいない車内、暗闇の中に浮かび上がる屋台。
なかなか進まない電車、真っ暗な見知らぬ世界、渡すはずの手紙をなくす。
物事はどんどん不吉な方向に進み、ついに電車は真っ暗闇の中で止まってしまう。この何もない真っ暗な世界で止まる電車の映像は怖かった。
ここで語られているのは、たった1人で見知らぬ世界に閉じ込められた恐怖ほと。絶望だ
明里が家に帰れば、もっと言うならば明里がいなければ、この孤独な旅を続ける必要がないからだ。
特に明里に伝えたいことをたくさん書いた手紙をなくした事は「明里に言いたいことを伝えられない=会えない」ことを暗示している描写のはずだ。そして会えず初恋は初恋として終わるはずだった。
しかしこの物語では明里は待っている。この正規ルートから外れたルートで貴樹は見てはいけないものを見てしまう。
「永遠とか心とか魂とかいうものがどこにあるのか、分かった気がした」。
未知のものへの畏れ、何かあるんだろうという不安と希望はなくなる。それは大人になるにつれて必ず失われるもので、失わなくてはならないもの、そして失ったとすら気づかないものだ。
しかし明里が待っていたことによって、貴樹はそれを失えなかった。それどころか孤独な暗闇の中の旅道の果てに「深淵にあるはずだと信じる世界の秘密を見てしまった」。
貴樹は貴樹が1人の少女と一緒に宇宙を見ている異星の草原の世界。あの美しい世界が秒速5センチメートルの世界に閉じ込められる。
その世界に閉じ込められている貴樹を花苗がなんとか救い出そうとする物語は第二話の内容である。
ここで大事なのは相手の少女の顔が見えないことだ。つまりこの時点ではこの少女は明里と確定したわけではない。
2人は頻繁に一緒に帰っている。コンビニに寄って一緒に買い物もしている。
でも貴樹はクラスメイトの言っている言葉と「遠野くんの彼女」と否定した。
場所は宇宙を見ることができる草原だ。ここは貴樹にとって永遠とか魂とか心とかがどこにあるかわかった気がした大切な場所だ。
本当の貴樹が存在する秒速5センチメートルの世界なのだ。貴樹は現実で自分に思いを寄せてくれているか花苗ちゃんと見て受け入れている。
告白を決意する波乗りの前に花苗は草原に立ち、顔を上げて、宇宙を見ている。
波を乗り越え、ずっと違った飲み物も同じ種子島コーヒーを飲むようになった。
ここで告白していれば貴樹は彼女の気持ちを受け入れただろう。
うまくいけば貴樹をその世界から救い出せる。しかし、ここで花苗は自信をなくしてしまう。貴樹に告白することをやめてしまった。
その瞬間秒速5センチメートルの世界で貴樹と共にいる「異星の草原の少女」が振り向き明里であることが確定する。そのため貴樹は現実との接点を失い、この世界を抜け出す方法がなくなる。永久に暗闇の中、孤独な旅の世界に閉じ込められる。