(天声人語)雪に凍える列島
昨年からの田中角栄ブームはいまだ続いているようで、書店には関連する本が並ぶ。豪胆であり、心に訴えかける姿に懐かしさを覚える人が多いのか。若き日の地元・新潟での演説では山脈を削って豪雪をなくすとまで語った▼新潟と群馬の境にある三国峠を切り崩してしまえば「季節風は太平洋側に抜けて、越後に雪は降らなくなログイン前の続きる。みんなが大雪に苦しむことはなくなるのであります!」。荒唐無稽である。それでも雪に悩む人たちの気持ちをとらえたと、元秘書の早坂茂三の著書にある▼そんな雪国だけでなく、日本列島が広く第一級の寒波に見舞われた。広島ではきのう33年ぶりの降雪量を記録し、原爆ドーム周辺も雪景色となった▼全国女子駅伝のあった京都では、ときに選手が見えなくなるほどの降雪だった。体温を奪う敵をはねのけながら必死に駆ける姿に見入った方も多かったろう。強い冬型の気圧配置は、きょうも続く▼中原中也は「生ひ立ちの歌」で、幼年時の雪をこう描いた。〈私の上に降る雪は/真綿のやうでありました〉。それが17~19歳には霰(あられ)、23歳にはひどい吹雪と感じられた。〈いとしめやかになりました〉と、落ち着きを見たのが24歳である。時々の心のありようを詩人は雪に託した▼寒波のなか大学入試センター試験に挑んだ人たちの目に、雪はどう映っただろう。風雪の言葉のように雪はどこか逆境や試練を思い起こさせる。人生の関門をくぐりぬけるための強さが雪から与えられることを祈る。