《罠の中》(一) 原文
薄暗い一室に、三人の男が集まっていた。テーブルを囲み、渋い表情をつきあわせている。三人の真ん中に灰皿が置いてあるが、何度取り替えても満杯になるのだった。
「やはり」
と一番年嵩の男が口を開いた。「なんとか事故に見せかけてほしいな。殺しだということが明白だと、すぐに捜査本部が設置されて、本格的に警察が動き出す。そうなれば、どこかでボロが出てくる」
「やつら、しつこいからなあ」
逆に一番若い男が、しかめっ面を作って見せた。こんなふうに言ったからといって、彼が警察に追われた経験があるわけではない。テレビ・ドラマでの印象を語っただけだ。
「同じじゃないかな、それは」
今まで黙っていた男が言った。色白で、金縁眼鏡をかけているので、神経質そうに見える。事実、彼にはそういうところがあった。
「少々うまく事故に見せかけたつもりでも、警察の科学捜査にかかれば簡単に看破されてしまう。そうなると、その小細工が命取りになる可能性がある。とにかく偽装工作というのは、危険だよ」
「自殺に見せるってのはどうかな?」
若い男が提案した。「毒でもいいし、ガスって手もあるなあ。なんとかうまく遺書を用意してさ」
「それはだめだ」
と年嵩の男が言い捨てた。
「どうして?自殺となれば、警察だってそんなにはしつこく調べないぜ」
「動機がない。あいつは身体は丈夫だし、金にだって不自由はしていない。悩みもとくにはなさそうだ。そういう人間が、なんだって突然自殺する必要があるんだ。だいいちどうやって遺書を書かせる?書いてくれって本人に頼むのか?筆跡が違ってたらアウトだし、ワープロじゃ疑われる」
「自殺はだめだね」
色白の男も横から口を挟んだ。「やはり正当な手段がいいと僕は思うね」
「事故死でいこうじゃないか」
年上が言った。「自殺と違って理由はいらない。それに完璧にやりさえすれば、警察だってそうしつこくは追及してこないはずだ」
「むずかしいと思うがね」
と色白の男は眼鏡を押し上げる。そしてまた何本目かの煙草に火を点けた。
「完璧にやるんだよ。」
と年上の男は言った。「いかにもアンラッキーな事故でしたって感じでな。充分に布石を打っておいて、俺たち全員の口裏も合わせておく」
「危険だよ。あまり気が進まない」
「そんなことを言えるのか?あいつが生きていて一番困るのは、おまえだろう」
「…………」